ワイヤーカットにおける加工液の影響とは?水と油の違いについて

製品部入子④

ワイヤーカットでは、主に水と油の2種類の加工液が存在します。現在では水が加工液として使用されることが多くなっていますが、この2つの加工液の違いについてきちんと理解されていますでしょうか?

ここでは、ワイヤーカットにおける水と油という2つの加工液による影響について解説いたします!

ワイヤーカットとは?

まず、ワイヤーカットについて説明いたします。

ワイヤーカットとは、正式にはワイヤー放電加工と言われる放電加工の一種で、真鍮などのワイヤー線に電流を流して加工物を溶融させながら切断する加工方法です。英語表記では、WEDM(Wire Electric Discharge Machinning)と呼ばれます。ワイヤー線には、主に真鍮製のワイヤー線が使用されますが、タングステンやモリブデン製の電極線もございます。また、ワイヤーカットをするための工作機械を、ワイヤー放電加工機と言います。

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ワイヤーカットは、ワイヤー電極線と工作物が非接触のまま加工されますが、ワイヤー線の太さがφ0.05~0.3mmということもあり、ミクロンレベルという高精度加工が可能というのが、ワイヤーカットの大きなメリットです。また、電気を通す素材であれば、加工が可能であるため、超硬素材などの加工にも適しています。

>>ワイヤーカットのメリット・デメリットについて

 

なぜワイヤーカットには加工液が必要?

そもそもの疑問ですが、なぜワイヤーカットには加工液が必要なのでしょうか?
ワイヤーカットでは、加工物とワイヤー電極線が絶縁状態にされている中で、加工物と電流が通ったワイヤー線が放電ギャップぐらいの距離まで接近すると、この2つの間で絶縁破壊が起こります。

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つまり、空気という絶縁体が加工物とワイヤーの間にあっても絶縁状態にはなるはずなので、原理的には空気中でも加工可能です。しかし、なぜ加工液の中で加工しなければならないのでしょうか?

それは、空気中で放電加工してしまうと、放電を起こしたワイヤー線が数千度の熱を持ってしまい、ワイヤー線が熱によって断線してしまうからです。ワイヤーカットでは、加工槽にだけ加工液があるのではなく、ワイヤー線の上にあるノズルからも加工液を吹きかけて、冷却しながら加工をしています。また、放電ギャップ内で発生した加工くずを除去するためにも加工液が必要です。

これらの理由から、ワイヤーカットは加工液中で加工が行われているのです。

 

水を用いたワイヤーカットのメリットとデメリット

それでは本題に移ります。まずは水を加工液として用いたワイヤーカットにおけるメリットとデメリットについてです。

メリット①:加工速度が油よりも速い

まず、ワイヤーカットで水を加工液として使うメリットとしては、加工速度が油より速いことが挙げられます。これは、油よりも水の方が粘性が低いため、加工くずの排出性が優れている点、そして比熱が大きいために油よりも冷却効果に優れている点が、メリットとして挙げられます。加工くずの排出性が良くなると、安定して放電加工を連続して続けることができるため、結果として全体的な加工速度の向上にもつながります。

 

メリット②:取り扱いが簡単

また水は、油よりも取り扱いが圧倒的に楽で簡単と言えます。油の場合は、万が一加工槽から液漏れした際に、取り扱いに注意が必要です。そのため、消防法の届けが必要など、若干の制限がかかります。

一方水の場合は、火災の心配はありません。また、液漏れしたとしても取り扱いは簡単なので、だれでも対処しやすい加工液だといえます。

 

メリット③:維持費が安く済む

水加工液使用の場合はイオン交換樹脂を毎月購入、油加工液の場合は加工液を総交換しない限り(補充はしますが)特に消耗品代は発生しないですが、加工液の価格が非常に高いので、総合的に比較すると水の方が維持費はかかりません。

 

デメリット①:加工精度は粗い

ワイヤーカットで水を加工液として使うときの大きなデメリットとしては、加工精度が油より劣ることが挙げられます。これは放電ギャップに起因します。水と油の絶縁抵抗値から、放電ギャップは水の方が大きくなり、より不安定な加工となってしまいます。したがって、より綺麗な表面を得たい場合は、油を加工液として採用する方がよいと言えます。

 

デメリット②:錆が発生しやすい

水の中でワイヤーカットをすると、どうしても錆が発生しやすくなってしまいます。これが水の中でワイヤーカットする際の2つ目のデメリットです。

最近の水専用ワイヤー放電加工機では、加工液が水だとしても腐食しにくくなっていますが、加工時間が長くなるとどうしても腐食が発生してしまいます。

 

デメリット③:イオン交換樹脂による管理が必要

ワイヤーカットの加工液として水を使う際は、イオン交換樹脂による管理が必要というのが最も煩わしいと言えます。

本来の純水は導電性を持ちませんが、水道水には不純物が多く含まれているため導電性となります。導電性の加工液では放電加工が成り立たなくなるため、水道水を加工液として使用する際は、イオン交換樹脂ユニットを通して濾過した、脱イオン水(純水)を使用する必要があります。

このとき、非抵抗値を50,000~10,000Ωの範囲で設定する必要があるのですが、この管理を怠ってしまうと、断線が発生したり、放電ギャップが変化して加工が不安定になってしまいます。そのため、ワイヤーカットの加工液に水を使用する際は、イオン交換樹脂フィルター等のメンテナンスを継続的に行う必要があります。

 

放電加工用の油を用いたワイヤーカットのメリットとデメリット

続いて、放電加工用の油を加工液として用いたワイヤーカットにおけるメリットとデメリットについてです。

メリット①:加工精度が水よりも優れている

ワイヤーカットで油を加工液として使うメリットとしては、加工精度・仕上げ面精度が水より良いことが挙げられます。これは、水よりも油の方が放電ギャップが小さく安定しているため、繰り返し精度という点で油の方が優れているためです。

そのため、形状精度も表面性状においても、より高精度な加工を必要とする際は油を選択した方が良いと言えます。また、微細形状の加工においても油の方が加工液として適しています。

 

メリット②:錆の心配がない

また加工液が油であれば、加工物の電気的な腐食や錆を心配する必要がありません。これも加工精度が水よりも油の方が優れている理由につながります。

 

デメリット①:加工速度が水よりも遅い

加工精度の面では油の方がメリットが大きいですが、それ以外の点では油にデメリットが多くなってしまいます。

まず、ワイヤーカットの加工速度に関しては、油を使う場合は水よりも約3倍の加工時間がかかってしまいます。そのため、水で粗加工、油で仕上げという使い分けも検討する必要があります。

 

デメリット②:取り扱いに注意が必要

また、万が一の時のための管理に注意が必要なのが油という加工液です。まず、加工槽から油が液漏れした際は、取り扱いに注意が必要です。また、使用する量にも左右されますが、油を加工液として使用する際は消防法関係で届出が必要な場合もあります。

通常の管理面では、水の方がイオン交換樹脂などの関係でやや煩雑ではありますが、油は緊急時に向けた管理が面倒と言えます。

 

デメリット③:メーカー専用の加工液でないと精度が担保できない

純水には種類はありませんが、油にはワイヤー放電加工機のメーカーごとに専用の加工液が販売されています。どれもほぼ灯油と類似していますが、専用の加工液を使用しないとワイヤーカットの精度を担保することができません。また最悪の場合、メーカーの専用加工液を使わずに機械が破損した場合に、保障をしてもらえないケースも発生しかねません。

 

デメリット④:維持費がかかる

水の場合は、イオン交換樹脂を定期的に購入・交換する必要があります。一方油の場合は、毎日の維持管理のために消耗品は特に不要ですが、加工液自体の価格は水よりも高くなります。そのため、総合的な維持費用としては油の方が高コストと言えます。

 

水と油、どっちをワイヤーカットの加工液として選べばよい?

では、ワイヤーカットの加工液として、水と油のどちらを選べばよいのでしょうか?

例えばメインは水でのワイヤーカットを行い、ギアや歯車などの微細形状かつ精度が求められる場合は油でのワイヤーカットを行う、という形で使い分けをするのが、多くの精密部品加工業者で行われている方法です。他の選択基準としては、
・大物の金型プレートは水で加工、金型部品は油で加工
・鉄系材料は水で加工、超硬は腐食防止のために油で加工
などが挙げられます。

また、元々大きな電流を流すことができない極細ワイヤー線を使用する際は、加工速度に違いはなく、必要な粗さ次第では油の方が水よりも加工時間が短く済む場合もあります。そのため、さらに近年では、油での加工においても加工速度が上がっている、はたまた水での加工でも高精度に加工できる、というケースも発生しています。電源やリニアモーターによる駆動軸などの技術発展により、水でのワイヤー放電加工機でも高精度加工ができるようになってきています。そのため、加工機やワイヤー線なども考慮した上で、最適な加工液を選ぶ必要があります。

どちらの加工液でも言えることとしては、加工液の水質管理の必要性です。ワイヤーカットの加工液は使い捨てではなく、循環して再利用しています。しかしワイヤーカットで発生した加工くずを適切に除去できなければ、どんどん加工液中に加工くずが溜まってしまい、加工精度が不安定になってしまいます。そのため、加工液中の加工くずをきちんと除去して水質管理をする必要があります。

 

ワイヤーカットの加工実績

続いて、当社が実際に加工したワイヤーカット加工による加工実績をご紹介いたします。

加工事例:製品駒
製品駒
こちらは、SKD11製の製品駒です。 加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。 >>加工実績の詳細はこちら
加工事例:製品部入子①
製品部入子①
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。 加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。 >>加工実績の詳細はこちら
加工事例:製品部入子②
製品部入子②
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。 加工方法としては、ワイヤーカット、マシニングセンタといった複合加工を行っています。 >>加工実績の詳細はこちら
加工事例:製品部入子④
製品部入子④
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。 加工方法としては、ワイヤーカット、超精密マシニング加工といった複合加工を行っています。 >>加工実績の詳細はこちら
加工事例:金型部品⑤
金型部品⑤
こちらは、ワイヤーカットによって製作されたDH2F製の金型部品です。 >>加工実績の詳細はこちら

ワイヤーカットなら、精密部品加工センターにお任せ!

精密部品加工センター.comを運営する株式会社長津製作所では、精密部品を中心とした様々な部品加工を多くの業界に向けて行っております。ワイヤー放電加工機から型彫放電加工機、研削加工機、マシニングセンタなど、多岐にわたる工作機械を保有しているため、あらゆる精密部品加工に対応しております。

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また、ホログラム光学素子用金型などの超精密金型の設計・製作実績も多数ございます。 さらに当社では、当社工場にとどまらず、大田区や燕三条など、国内でも有数の加工集積地に幅広い加工ネットワークを築いております。これらの加工ネットワークを駆使することで、どこの会社ならできるかわからないような部品加工にも対応いたします。

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