「大量にある部品ひとつひとつのコストを見直すのは大変」
「外注管理に忙殺されてコストダウンに取り組むのが難しい」
「馴染みのある加工業者、部品業者のほうが細かい要求を伝えやすくて安心」
製造業で働く生産技術・調達担当者の方はコストダウンをしたいと思いながらも労力の大きさにうんざりすることもあるのではないでしょうか。
特に、医療機器の装置製造業の場合は産業用にくらべて厳しい規格があったり、高い安全性の確保が求められたり。1つの医療機器を製造するのに大量の部品を管理する必要があるので多くの企業が業務改善に頭をかかえています。
そこで、この記事では医療機器の装置製造業で働く生産技術・調達担当者の方に向けて部品をコストダウンする方法についてまとめています。
医療機器製造装置の部品コストダウンのポイント
医療機器製造装置の部品コストを抑える方法として以下の5つのポイントがあります。
①残板の少ない設計をする
②用途や仕様に合った表面処理法を選択する
③機械加工工具のスペックを最適化する
④ITを利用してコスト構造を透明化・可視化する
⑤部材調達先を異分野のメーカーに変更する
具体的な内容は記事の後半に書いていますので、よかったら参考にしてみてください。
医療機器製造装置とは
「医療機器製造装置」とは医療機器を製造する装置のことです。
「医療機器」は医薬品医療機器法(薬機法施行令別表第1)で下記のように定義されています。
医療機器とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。
一般的名称は4,000種類以上、品目数は30万以上存在し、目的によって以下のように分類されます。
1.疾病の診断・治療・予防に使用されることが目的とされるもの
①診断系機器(例:内視鏡、CT、MRI、超音波診断装置)
②治療系機器(例:注射器、カテーテル)
③予防系機器(例:体温計、血圧計、ピンセット)
2.身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされるもの
例:ペースメーカー、人工関節、電位治療器、低周波治療器等
また、医療機器は不具合が発生したときに生体に及ぼす危険の度合いに応じてⅠ~Ⅳの4つのクラスに分かれています。クラスごとで販売に必要な申請手続きが変わります。
製造業の役割は、医療機器製造販売業者から委託をうけて医療機器の製造を行うことです。
そのため、医療機器製造業は「医療機器を製造し、製造販売業者に出荷するまで」の責任を負っています。
医療機器製造業についてまとめると、
・製造した製品を医療機器製造販売業者もしくは医療機器製造業者にのみ販売・貸与・授与する
・医療機器の承認・認証申請は行わない
・医療機器を医療機器製造業者やエンドユーザーに売ることはできない
さらに製造業の区分は下記の4つに分かれています。
1.一般・・・製造工程の全部または一部
2.滅菌・・・滅菌医療機器の製造工程の全部または一部
3.特定生物由来・・・特定生物由来製品の製造工程の全部または一部
4.表示、保管など・・・表示・包装及び保管のみを行う
いずれも「製造管理および品質管理の基準」としてQMS省令の適合が許可要件になっています。QMS省令は、医療機器の品質保証を定めた国際規格であるISO13485に準拠し、薬事法の法規制に適合するように構築されています。
医療機器製造装置は部品と部材で構成され、それぞれ下記のように区別されています。
「部品」・・・装置の一部分を構成している部分品
「部材」・・・装置の構造物(骨組み)を組み立てている部分品。
部材のことを、部品の一部と考えてしまう人もいますがそれは誤りです。
・部材すべてが医療機器に該当するわけではない。
・医療機器に該当しない「部材」は医薬品医療機器法上の規制は適用範囲外。
・供給した「部材」に欠陥が生じた場合でも、部材供給企業に過失がない限り免責される。
このような特徴があり、部品業者と部材業者それぞれから供給されたパーツで医療機器製造装置が構成されています。
医療機器製造装置と産業用装置の部品の違いは品質保証者
一般機器、産業機器、ヘルスケア機器、理化学機器などの産業用部品・部材の品質安全性などは製品の「販売業者」が保証しています。
一方で、医療用部品・部材の品質安全性などは「製造販売業者」が保証しています。
医療機器製造装置に使われる材質はおもに難削材
医療機器分野の切削工具は金属加工をメインとする手術用機器、インプラント、外科用機器を対象にしたものが大半を占めています。
医療機器は体内に入るものもあるので、素材も血液適合性や耐食性などの厳しい条件をクリアしなければなりません。形状が複雑なものも多く、加工には高い技術力が求められます。
主に使用される素材はチタン合金、ステンレス合金、コバルトクロム合金などの難削材。
それぞれの特徴は以下の通りです。
コバルトクロム合金
医療用で最も切削が難しい素材です。
チタン合金より耐摩耗性に優れているため使用期間が長いのが特徴。
機械強度が高く、溶着も発生しやすいので、耐摩耗性の高い工具材種を選定することがポイントです。
人工関節の摺動部、Spine/Screwなどの小さな部品、薄肉部品に使用されています。
チタン合金(Ti-6AI-4V)
生体適合性に優れており、医療部品で最も多く採用されています。
熱伝導率が低く切削熱が高いので耐熱性に優れた工具材種と切りくず排出性を考慮した工具形状を選定する必要があります。優れた耐食性と強度を持ち、非磁性体のためMRI検査にも対応しています。
ステンレス合金
小物部品が多いです。オーステナイト系ステンレスと析出硬化系ステンレスで切削特性が大きく異なります。
その他、チューブ、シリンジ、キャップ、容器、カートリッジなどでプラスチックも多くの医療用製品に使われています。
医療機器製造装置で使われる部品は多岐にわたる
医療機器は一般名称で4000種類以上存在し、用途もさまざまです。そのため、医療機器製造装置でよく使用される部品を限定することは困難な状態です。
代表的な医療機器の製造に用いられる部品は以下の通りです。
・旋削チップ
・回転工具(ヘッド交換式エンドミルシリーズ)例:人工股関節
・回転工具(穴あけ工具)例:脊椎椎弓根スクリュー
・回転工具(ソリッドエンドミル)例:外傷用骨圧迫プレート、人工膝関節
・旋削用インサート例:歯科用
医療機器製造の装置部品をコストダウンする5つのポイント
具体的に医療機器製造装置の部品コストを削減する方法について説明します。
残板の少ない設計をする
プリント基板の場合ですが、基板の両脇につかみ部分(捨て基板)がある方が作業効率が上がるため、実装および半田槽用に10㎜幅の捨て基板を追加しましょう。
一般的な定尺寸法(1,020×1,020mmもしくは1,220×1,020mm)を考慮して取り数を最大化できるように基板の寸法を設定します。
基板の取り数、捨て基板の部分を考慮してプリント基板のサイズを設定することでコストを削減できます。
用途や仕様に合った表面処理法を選択する
表面処理によって金属の強度を上げることが可能です。また、高精度部品は研磨指示を行うことで部品精度を実現できます。
しかし、実際に必要なスペックには表面処理が不要な場合もあるため、図面上には単純な研削指示ではなく、求めるスペックを数値で記入するようにしましょう。
機械加工工具のスペックと加工条件を最適化する
機械加工とは、プラスチックやチタン合金、ステンレス合金などを研削・切削し、任意の形状に加工することを言います。
工具の選定や加工条件の最適化をすることで、加工時間を減らしコストダウンにつなげることが可能になります。
ITを利用してコスト構造を透明化・可視化する
医療機器製造装置に使われる部品は数や種類が膨大でそれぞれを管理するだけでも大変です。
しかし、ITを利用すれば顧客別・製品別・サービスレベル別でかかっているコストを少ない労力で可視化し検討することができます。
その結果、要求する部品の品質レベルを的確に把握し、過剰スペックになっている部品にかかっている費用を削減することができるでしょう。
ITサービスを利用して納入状況や配送コストの管理ができればどのくらい業務改善ができたかを把握する指標にもなります。PDCAサイクルを確立して自社製品の納入スピードを早めて販売を拡大する可能性も広がります。
部材調達先を異分野のメーカーに変更する
部材は全てが医療機器に該当しているわけではないため、部品に比べて変更しやすいというメリットがあります。
そのため、部材の調達先をよりコストパフォーマンスが良い企業に変更するのもコストダウンに効果的です。
最近は自動車産業や航空機関連など異分野から医療業界に参入する企業も増えてきています。特に自動車産業などは大量の部品を安いコストで製造するノウハウをもっているため、条件に合う企業を見つけることができれば大幅にコストを削減することができるでしょう。
また、いくつかの条件を入力するだけで自社製品に合った最適な調達先を選定してくれるITサービスを利用してみるのもコスト削減に効果的です。(当サイトもそのようなサービスの一つです。)
自社条件にあった信頼できる部品・部材業者を見極めよう
部材の加工業者は供給する部材について、仕様書にあるスペックや性能及び品質の保証は求められるが医療機器に適応するかを評価する必要はありません。
すなわち、発注した部材が医療機器に使用するのに必要な材料であるか、安全性を満たしているかの評価は購入者である医療機器製造業(医療機器メーカー)が行う必要があります。
中には生物学的安全性試験の情報を提示して医療用と謳っているものもあるため医療機器へ適用するかどうかは慎重に検討することが重要です。
その他に重要な点としては、
● 求める製品の精度と品質を明らかにしておく
● 同業他社と比較したときの強み
● 自社技術の限界(問題点)を把握しているか
● 依頼ニーズに対して提案力があるか
● 納期、価格は妥当か
● 技術力、製品の品質は妥当か=部品、部材を設計・仕様通りに作れる
● ISO9001もしくはISO13485の取得をしている
● 医療機器に使用された実績があるか(リスク分析、生物学的安全性試験)
● 安全性に関するデータがあるか(電気安全性試験、電磁安全性試験)
などが挙げられます。
自社条件にあった部品・部材業者へ調達先を変更すればコストダウンすることが可能です。