型彫放電加工は、金型の部品加工には多用される加工方法ですが、ワイヤーカットなどの他の放電加工やマシニング加工などの接触加工と比較して、メリットもデメリットも多数ございます。
ここでは、型彫放電加工と他の加工方法を比較した上での、メリットとデメリットを解説し、どのような場合に型彫放電加工を選択すればいいのか、まとめて解説いたします!
型彫放電加工とは?
そもそも型彫放電加工とは、どのような加工方法でしょうか?
型彫放電加工とは、電極の形状をワークに転写する放電加工のことです。ワークは油や水などの絶縁性のある加工液に沈めて、電極と材料を向い合せた状態で電極をワークに近づけて放電させ、電極が反転された3次元形状をワークに加工します。
>>型彫放電加工とは?原理・仕組みから特徴まで、まとめて解説!
型彫放電加工では、電極の加工精度が型彫放電加工の加工精度を決めると言っても過言ではありません。つまり、高精度な電極を製作することが、高精度なワークを得るための型彫放電加工に必要なポイントと言えます。
>>型彫放電加工における高精度加工をするための9つのポイント
また、ワイヤーカットは切断加工であるのに対し、型彫放電加工では底がある形状、ポケット形状の加工をすることができます。この点がワイヤーカットとの大きな違いです。
型彫放電加工のメリット
それでは、型彫放電加工のメリットについて解説していきます。
導電性のある材料であれば、厚みや硬度に関係なく加工可能
型彫放電加工は、加工時に局所的に発生する6000~7000度もの高温によって加工する方法です。また地球上で最も融点が高いとされている材料でも約4000度です。そのため理論上では、導電性がある材料であればどんな金属材料でも加工可能というのが型彫放電加工の大きな特徴です。
高精度加工が可能
型彫放電加工では、電流や電圧の微調整をしながら加工します。そのため、非常に高精度な寸法や面粗さを得ることができます。この特性から、型彫放電加工は、スマートフォンやカメラなどの小型部品から、航空機やロケットなどの大型工業製品まで、幅広い微細・精密加工に対応することができるのです。
複雑形状の加工が可能
型彫放電加工では、電極の加工精度が型彫放電加工の加工精度を決めると言っても過言ではありません。しかしこの電極は、銅やグラファイトなど、比較的加工が容易な素材で製作することができるため、電極の形状や非常に自由度を高くすることができます。特に5軸マシニングセンタなどの高精度工作機械を使用することで、複雑形状を電極に加工することができます。
そのため、電極の形状が転写されるワーク自体も複雑形状や微細形状に加工することができます。エンドミル等では加工が困難な溝形状、コーナー等の複雑な形状も加工することができるのは、型彫放電加工の大きなメリットです。
底付けやポケット形状の加工が可能
ワイヤーカットでは、ワイヤーをセットするために必ず貫通穴を事前に設けておく必要があります。しかし型彫放電加工ではワイヤーを使用しないので、貫通穴を用意する必要はありません。また、ワイヤーカットでは切断加工であったのに対し、型彫放電加工では底がある形状、ポケット形状の加工をすることができます。この点がワイヤーカットとの大きな違いです。
>>ワイヤーカットと型彫放電加工の違いについて
工作機械が故障する可能性は低い
型彫放電加工では、ワークと直接触れない、非接触加工の1つです。そのため、旋盤加工やマシニング加工のような接触加工の工作機械と比較すると、比較的工作機械自体が故障しにくいという点は、型彫放電加工のメリットとなります。
無人運転・夜間運転が可能
型彫放電加工は時間がかかる加工方法ではありますが、NCプログラムによって夜間の無人運転もすることができます。そのため、加工中は他の作業に時間を当てることができます。
また当社では、ワークチェンジャを搭載した型彫放電加工機を用いることで、長時間の自動運転が可能となり、高効率な加工体制を実現しております。
型彫放電加工のデメリット
続いて、型彫放電加工のデメリットについて解説していきます。
導電しない材料は加工できない
型彫放電加工は放電加工の一種であるため、導電性のある素材では硬さや厚さに関係なく加工することができます。しかし、通電しない絶縁材料は加工することができません。
加工速度が遅く、量産に不向き
型彫放電加工では、工作物と電極が約数十ミクロン(μm)という髪の毛ほどのわずかな距離を一定に保ちながら、数μsという非常に短い間隔で連続した放電加工がされます。しかし加工物を少しずつ溶融させながら切断する加工方法のため、切削加工などの他の加工方法比較すると、非常に加工速度が遅い点がデメリットとして挙げられます。1回の放電加工で削れる量も微々たるもので、加工には1日かかることも多々あります。
また、どのような導電性のある材料であれば加工はできるものの、材料ごとに導電率は異なるため、金属によっては加工に数時間~数日という単位で加工時間の違いが生じてしまいます。
このように、型彫放電加工は加工速度が遅いため、あらゆる材料の高精度加工ができるものの、量産にはあまり向いていない加工方法と言えます。そのため型彫放電加工は、金型部品を中心とした、小ロットの高精度加工のために使用されることが多い加工方法とも言えます。
ワーク形状に合わせて都度電極を製造する必要がある
電極の自由度が高く、複雑な形状を加工することの裏返しにはなりますが、ワーク形状に合わせて都度電極を製造しなければいけないというのが、型彫放電加工の最も大きなデメリットと言えます。他の加工方法では、形状に合わせてワークを直接加工しますが、型彫放電加工は電極形状を転写させて加工させる間接的な加工方法です。そのため、電極を加工するという余分な工程があり、どうしても全体的な生産性は落ちてしまいます。
工作機械が高価
型彫放電加工機は、他の工作機械よりも高価になる場合があります。また、加工液も大量に使用するため、加工コストはやや高めな加工方法でもあります。
サブ電極を用意する必要がある
型彫放電加工では、特に電極に角部がある場合は、加工中に摩耗が進んでしまい、加工中にワークの仕上げ形状が得られない場合があります。そのため、サブ電極を用意して、加工途中でサブ電極に取り換えるということも必要になります。
型彫放電加工の加工実績
続いて、当社が実際に加工した型彫放電加工による加工実績をご紹介いたします。
加工事例:製品駒
こちらは、SKD11製の製品駒です。 加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。
加工事例:製品部入子①
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。 加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。
型彫放電加工なら、精密部品加工センターにお任せ!
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