ワイヤーカットとは、真鍮などのワイヤー線に電流を流して加工物を溶融させながら切断する加工方法です。部品加工には多用される加工方法ですが、その詳細な原理や、ワイヤーカットならではの特徴について説明できる方は意外と少ないのです。
ここでは、ワイヤーカットの基本的な原理・仕組みから特徴、メリットやデメリット、他の加工方方法との比較まで、まとめて解説いたします!
ワイヤーカットとは?
ワイヤーカットとは、正式にはワイヤー放電加工と言われる放電加工の一種で、真鍮などのワイヤー線に電流を流して加工物を溶融させながら切断する加工方法です。ワイヤー線には、主に真鍮製のワイヤー線が使用されますが、タングステンやモリブデン製の電極線もございます。また、ワイヤーカットをするための工作機械を、ワイヤー放電加工機と言います。
放電加工として有名な加工方法としては、型彫放電加工があります。ワイヤー放電加工では、φ0.05~0.3mmの極細電極線を使用して、糸鋸のように金属加工物の切断を行いますが、型彫放電加工では、加工形状に合わせた専用の電極を作成する必要があります。
ワイヤーカットはと型彫放電加工と頻繁に比較をされます。その違いは非常に明確で、加工物の形状に合わせて適切に使い分けることが大切です。
ワイヤーカットは一般的には馴染みの少ない加工方法ではありますが、様々な製品の金型部品、家電製品、輸送機部品など、日常生活の中でも使われている製品を製造するために使用されている加工方法でもあります。
ワイヤーカットの原理・仕組み
ワイヤーカットでは、まずワイヤー放電加工機の加工槽の中に加工物をセットし加工液で満たします。加工液には、水と油の2種類があるため、製品の使用用途や加工精度を基準に使い分けをします。また加工槽には冷却装置が備え付けられており、加工液の温度を一定に保つことで、加工物の熱膨張や変形を抑えています。
この2つの加工液の違いと加工の際の影響については下記記事にて詳しく解説しております。
>>ワイヤーカットにおける加工液の影響とは?水と油の違いについて
ワイヤー線は上下がつながっており、ワイヤガイドによって上部から供給され、下のワイヤガイドによって回収されていきます。そのため、加工物の端ではなく中央部分から加工を行う際は、細穴放電加工機などを用いてあらかじめ加工物に貫通させたスタート孔を加工する必要があります。
そして、ワイヤー電極線に電流を流して加工します。このとき、加工物とワイヤー線は、約数十ミクロン(μm)という髪の毛ほどのわずかな距離を一定に保ちながら加工していきます。この加工物とワイヤー電極線の隙間のことを放電ギャップと言います。一般的に放電ギャップは0.005~0.01mmと言われています。
水や油などの加工液によって加工物とワイヤー電極線が絶縁状態にされている中で、加工物と電流が通ったワイヤーが放電ギャップぐらいの距離まで接近すると、この2つの間で絶縁破壊が起こります。絶縁破壊とは、絶縁体への電場が閾値を超えた際に、電気抵抗が急激に低下し、大きな電流が流れる現象のことで、雲と地面の間で発生する雷も同様の原理によって発生します。つまりワイヤーカットとは、ワイヤー電極線と加工物の間で発生する極小の雷によって加工されるという表現もできます。
絶縁破壊によって、パルス電流(=極小の雷)が瞬時に流れ込むことで、アーク柱という高密度な放電状態が発生し、局所的に6000~7000度もの高温となり、金属加工物が溶融します。さらに、アーク柱の周りの加工液の温度も上昇することで、瞬時に気化し、急激な体積膨張が発生します。これが局所的な爆発現象となり、工作物とワイヤー電極線の表面にある溶解金属を吹き飛ばします。
パルス電流の流れ込みが終わると、体積膨張した分だけ加工液が流れ込んできます。また、ワイヤー線も上⇒下へと供給されているため、電極線まわりにも加工液の流れが発生します。この時に溶解金属が冷却され、極小の加工くずとして洗い流されます。そして、また加工域が絶縁状態になると、次の絶縁破壊に至るまでの電圧供給を待ちます。
この、絶縁破壊⇒溶融⇒除去⇒回復⇒絶縁破壊のサイクルが、パルス電圧ごとに数μsという非常に短い間隔で繰り返されることで、連続した放電加工がされ、加工物を切断できるのです。
このようにワイヤーカットとは、ワイヤー線は加工物に触れることはなく、ワイヤー線に電流を流すことで加工する非接触式の放電加工方法です。しかし、一見すると糸鋸のようにワイヤー線自体で金属を切断するように見えるため、ワイヤーカットという通称で呼ばれています。
ワイヤーカットの特長
ワイヤーカットの特長は、主に3つです。
① 導電性のある材料であれば加工可能
ワイヤーカットは、加工時に局所的に発生する6000~7000度もの高温によって加工する方法です。一方、地球上で最も融点が高いとされている材料でも約4000度です。そのため理論上では、導電性がある材料であればどんな金属材料でも加工可能というのがワイヤーカットの大きな特長です。従ってワイヤーカットでは、一般的な鋼板、ステンレス、銅、アルミなどの材料から、超硬、インコネル、さらには多結晶ダイヤモンドまで、様々な材料の加工に使用することができます。
切削加工の場合は、薄板の切断や、超硬材料の加工は非常に困難とされています。しかしワイヤーカットでは、薄板から200mm以上の厚みのある材料まで、材料の硬さに関係なく加工することが出来るのです。
② 高精度加工が可能
ワイヤーカットは、ワイヤー電極線と工作物が非接触のまま加工されますが、ワイヤー線の太さがφ0.05~0.3mmということもあり、切り代としては約0.4mm以下という加工幅になります。つまり、切削加工では加工が難しい材料で合っても、ミクロンレベルという高精度加工が可能というのが、ワイヤーカットの2つ目の特長です。工作物の寸法が小さい場合は、寸法公差±0.01という精密加工も可能となります。
>>ワイヤーカットによる高精度加工をするための8つのポイントとは?
③テーパー加工も可能
さらにワイヤーカットでは、直線や曲線といった平面加工だけでなく、工作物に角度をつけて加工するテーパー加工も可能です。そのためワイヤーカットでは、難削材の高精度複雑形状を実現することができます。
ワイヤーカットのメリット・デメリット
ワイヤーカットのメリット・デメリットはそれぞれ以下の通りです。
【メリット】
・導電性のある材料であれば、厚みや硬度に関係なく加工可能
・極薄板の加工が可能
・高精度加工が可能
・加工物への負荷が少ない
・バリが生じない
・複雑形状の加工が可能
・工具が不要
・材料ロスが少ない
・無人運転・夜間運転が可能
・低コストで加工が可能
【デメリット】
・加工速度が遅く、量産に不向き
・導電しない材料は加工できない
・底部分の加工ができない
・水平方向の加工ができない
ワイヤーカットとレーザー加工の違い
放電現象による非接触加工であるワイヤーカットは、同様の非接触加工であるレーザーカット加工と頻繁に比較をされます。主に、①加工方法、②加工速度、③加工精度、④板厚、⑤コストの5つの点で違いがあります。
違いを踏まえた上で、通常の厚さや精度で板金部品を量産する必要がある場合はレーザーカット加工、厚さが極端に厚かったり薄い場合で、精度が必要な試作品・金型部品の場合は、ワイヤーカット加工、という形で最適な加工方法を選択する必要があります。
当社では、ワイヤーカットやレーザーカット加工のような加工方法ごとの特性を活かした上で、多工程の取り回しが必要な複雑形状部品や金型部品、治具などの精密加工を得意としております。
>>複合加工とは?メリットや当社で対応可能な加工方法について
ワイヤーカットの加工実績
続いて、当社が実際に加工したワイヤーカット加工による加工実績をご紹介いたします。
加工事例:製品駒
こちらは、SKD11製の製品駒です。
加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。
加工事例:製品部入子①
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。
加工方法としては、ワイヤーカット、放電加工、マシニングセンタといった複合加工を行っています。
加工事例:製品部入子②
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。
加工方法としては、ワイヤーカット、マシニングセンタといった複合加工を行っています。
加工事例:製品部入子④
こちらは、STAVAX製の製品部入子です。
加工方法としては、ワイヤーカット、超精密マシニング加工といった複合加工を行っています。
加工事例:金型部品⑤
こちらは、ワイヤーカットによって製作されたDH2F製の金型部品です。
ワイヤーカットなら、精密部品加工センターにお任せ!
精密部品加工センター.comを運営する株式会社長津製作所では、精密部品を中心とした様々な部品加工を多くの業界に向けて行っております。ワイヤー放電加工機から型彫放電加工機、研削加工機、マシニングセンタなど、多岐にわたる工作機械を保有しているため、あらゆる精密部品加工に対応しております。
また、ホログラム光学素子用金型などの超精密金型の設計・製作実績も多数ございます。
さらに当社では、当社工場にとどまらず、大田区や燕三条など、国内でも有数の加工集積地に幅広い加工ネットワークを築いております。これらの加工ネットワークを駆使することで、どこの会社ならできるかわからないような部品加工にも対応いたします。
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